インバウンドビジネス必読書『新・観光立国論』レビュー
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少子高齢化の進行により、人口減少そして経済衰退がほぼ決定的となった今、日本再生のための起死回生の一手を唱えるあるイギリス人がいます。
今や日本のこれからの観光を語る上で無くてはならない存在となった、デービット・アトキンソン氏です。
今回はそのアトキンソン氏が2015年に執筆した『新・観光立国論』をご紹介したいと思います。
この本はインバウンドに身を置き始める前に読むべきだったのですが、何かと理由を付けて避けていました笑
アトキンソン氏のことはもちろん知っていましたし、東洋経済オンラインで出稿された記事をいくつか読んだこともあります。
この本を読んで、改めてアトキンソン氏の論説は正しいと感じましたし、これからの日本の再生、インバウンドに必要なマインドや方法を学ぶことが出来ました。
インバウンドビジネスに携わる方にとっては必読書と言えましょう。
- インバウンドビジネスに携っているあなた
- これからインバウンドビジネスに参入しようというあなた
- 日本の観光を客観的に捉えたいあなた
書籍概要
それではまず『新・観光立国論』が書かれた背景について触れておきます。
冒頭でも述べた通り、アトキンソン氏はアナリストとして20年ほど日本で活動してきました。
そんな中、日本が少子高齢化の渦中で衰退の一途を辿っており、それを客観的に分析した結果、「観光」が起死回生の一手となる唯一の方法だという結論に至ったのです。
ただもちろんそれ以外にも、日本で生活する中で抱いた疑問に、「もったいない」というのもありました。
もったいないというのは、これだけ豊富な観光資源があるのに、外国人旅行者の誘客が今ひとつであるということです。
さらに、そのポテンシャルを活かしきれていない中で決定した2020年の東京オリンピック開催が、『新・観光立国論』の執筆を決める決定打だったようです。
総ページ数は275ページで、僕は3時間かけて読みました。
観光に携わる全ての人に読んでほしいと思いました。「日本の観光のレベルは低い」という指摘を受けていると感じられほど、今の日本の観光のあり方には問題が山積みです。
国家施策というマクロ的な視点がメインではありますが、一事業者にも役立つ内容が詰まっている書籍です。
著者プロフィール
元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。
目次
はじめに:日本を救うのは「短期移民」である
第1章:なぜ「短期移民」が必要なのか
第2章:日本人だけが知らない「観光後進国」ニッポン
第3章:「観光資源」として何を発信するか
第4章:「おもてなしで観光立国」に相手のニーズとビジネスの視点を
第5章:観光立国のためのマーケティングとロジスティクス
第6章:観光立国のためのコンテンツ
おわりに:2020年東京オリンピックという審判の日
印象に残った内容
登録や認定への奢り
2013年、富士山がユネスコの世界遺産登録を受けました。
ただ、日本人はどこか「世界遺産に登録されれば自然と観光客は集まる」と考えている節があると書かれていましたが、全く同感です。
これは登録や認定制度の規模に関わらず言えることだと思います。
世界遺産であれば、多少観光客は訪れるでしょうが、案内板の整備などサービス向上施策を何も打たなければ、「この程度か」と思われて、評価を下げるだけでしょう。
評価が下がれば、その後の観光客も訪問をやめようと思うはずです。
遺産登録や認定制度取得は評価すべきですが、そこに奢りがあっていけないと思います。
それ自体はお墨付きということで前向きに捉え、登録や認定をどのように活かしていくか、観光客の満足度をいかに上げていくかを考えるべきでしょう。
観光地としてより多くの人を誘客したいのであれば、まずはサービス品質の向上が第一優先事項であるべきで、遺産登録などはマイルストーンに過ぎないということです。
メディアによる情報操作
昨今「外国人」にフォーカスしたテレビ番組が急増していますが、アトキンソン氏が指摘するように、僕もそういったメディアに対しては疑念を抱いている立場です。
「日本のどこが好きですか」といった質問結果を報道するバラエティ番組がありますが、その回答は日本びいきになるに決まっているし、制作側が回答を選んで報道しているでしょう。
視聴率や注目のために情報操作しているわけです。
それ自体も良くないことですが、それをそのまま受け取る視聴者にも問題があると思います。
メディアリテラシーの低さ、というか民度の低さを露呈してしまっているような気がします。
物事を良いように解釈することで、本質が理解できなくなり、必要な政策や意思決定を阻害してしまいます。
少なくとも自分はメディアの流す内容に疑いを持つことも忘れないようしたいと思います。
成田-東京間の新幹線
アトキンソン氏は成田空港と都心を結ぶ新幹線の必要性を述べていました。これも同感です。
日々外国人旅行者と接している中で「空港が遠すぎる」といった話を頻繁に聞きます。頻繁に、です。
もちろん鉄道の運賃の高さを不満に思う方もおりますし、逆に新幹線の快適さを称賛する方もいます。
個人的には、リニア中央新幹線の建設よりも成田空港への新幹線延伸の方が優先的に行われるべきなのではと思います。
JRからすれば収益性の観点から外国人旅行者よりも国内のビジネスマンを優先したほうが良いのでしょう。それは至極当然のことです。
ただ、ここで政府が「観光立国」を推し進めたいのなら、政策としてJRへ出資するなども考えるべきかと思います。
既存のビジネスモデルの問題
日本の観光はゴールディンウィークや連休といったいわゆる「かきいれ時」にフォーカスしているとありました。
最低限のサービスの質を担保し、より多くの観光客をさばくような供給側の効率を重視したスタイルです。
それだけでなく花火大会や各地で行われる1日だけのイベントも1度にわっと観光客が押し寄せてくるような似た現象です。
アトキンソン氏はこの要因を経済成長期の人口増加にあると述べています。つまり人口増加が前提に成り立つビジネスモデルなのです。
少子高齢化により人口減少が現実のものとなっている今、今すぐに脱却すべきビジネスモデルです。
それだけでなく、一度に人が押し寄せる観光はそれぞれの満足度も総じて低くなりますし、まして外国人旅行者からすれば苦情ものでしょう。
外国人旅行者誘客のためには、サービスの質向上もそうですが、この既存のビジネスモデルからの脱却は急務と言えます。
価格に多様性をつける
海外では、文化財施設でのツアーやファストパスといったサービス向上のための施策が多く行われているとありました。
特に面白いと思ったのはそのサービスにもスタンダードやプレミアムといったランク付けをしてしまうのです。
より多くお金を払った人は、より深い話を聞くことができ、かつより効率的にその施設を回ることが出来るのです。
確かに「文化財で金儲けをする」というのは疑念が湧かないでもないですが、目的を考えれば大変理にかなっています。
ここでも今までの観光のあり方を見直す必要があると感じました。日本人感覚の観光は外国人からすれば異質であり、低品質だと自覚すべきなのです。
まとめ
観光従事者それもインバウンド従事者の自分にとって、既知の事実は多くありましたが、やはり一流アナリストの説得力の凄みを終始感じました。
文化財保護事業に携わるアトキンソン氏だからこそ感じる問題意識に焦点が当てられていましたが、ここまでの指摘が出来る人は日本人ではいないのではないかとも思えました。
滞在期間を伸ばす、というのは外国人旅行者のみならず日本人旅行者についても言えることで、取り組むべき問題です。
ロジスティクスの整備や統合リゾート建設は多額の費用がかかると予想されますが、観光立国を政府が掲げている今、より目に見える施策を国としても行うべきだとの疑問も感じました。
一事業者として外国人旅行者の誘客に携わっている自分だからこそ、より深く内容の理解も出来ましたし、今後の事業運営の参考にしたいと思います。
みんなで作ろう観光立国ニッポン!
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