地域おこし協力隊で失敗しないために〜三重県南伊勢町の訴訟事件を受けて〜
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どうもこんちは、役場のお兄さんに冷凍鮎を大量に頂いたDaiです。
去年のものでも鮎は美味い。天然物も楽しみだけどね!
さて6月末、日本全国の地域おこし協力隊を揺るがすトンデモ事件の報道がありました。
今日はその事件に関して思ったことを徒然なるままに書いてゆきます。
地域おこし協力隊隊員が三重県南伊勢町を提訴
毎日新聞の記事より引用させて頂きました。
勤務先の三重県南伊勢町の職員らからパワーハラスメントを受け、休職せざるをえなくなったとして、「地域おこし協力隊員」の30代の女性が29日、損害賠償と未払い賃金計約312万円を同町に求めて津地裁伊勢支部に提訴した。
訴状などによると、女性は地域活性化のため活動する隊員として昨年7月、町に臨時職員として採用され、集落の伝統文化の保存などを担当した。採用時に町から住居を紹介されたが、古くて津波の懸念もあったため同県伊勢市のアパートから通勤した。すると複数の職員から「引っ越ししろ」などと強要され、雇用契約を打ち切るようなことを言われたり、仕事で嫌がらせを受けたりしたという。同11月には約3時間にわたって怒鳴られ、机を蹴られたため出勤できなくなり、適応障害と診断されて、今も自宅療養を続けている。また、時間外勤務分の割増賃金が支払われていないとしている。
地域おこし協力隊は国の地域振興策で創設され、同町では昨年初めて原告の女性ら3人が採用された。任期は1年ごとに更新され最長3年だが、女性は今月末までとなる。
29日に伊勢市内で記者会見した女性は「指示通りにやっていたのに『わがままだ』と、きつく言われ、つらかった」と話した。
代理人の森一恵弁護士は「服務規律がないまま、職員によって指示が変わるなど町の受け入れ態勢に不備があった」と指摘した。
南伊勢町は「訴状が届いていないのでコメントできない」としている。
引用:毎日新聞(2017/6/29)
僕がこの事件を知ったのは下呂市地域おこし協力隊の月例会議でのことでした。
下呂市役所の協力隊担当者の方が記事の印刷を持ってきて下さって、隊員全員で読み合わせました。
正直僕の最初の反応は、「〇〇さん、またこういう暗い話題持ってきたんですか!」でした笑
前回の会議でも似たような内容の資料が配られたので…でも事件自体は本当に驚きました。
【追記:2017/9/7】
第1回口頭弁論が9月7日、津地方裁判所で行われました。南伊勢町は「パワハラの事実はない」と全面的に争う姿勢を示したようです。
時系列に沿って訴訟に至るまでの経緯を解説
気を取り直して事件を時系列に沿って簡単にまとめます。
【2016年7月】
三重県南伊勢町が地域おこし協力隊として30代女性(以下、Aさんとします)を採用
【2016年8〜11月】
津波など身の危険を感じたため、市から紹介された住居には住まずAさんは隣町の伊勢市のアパートから通勤
複数の職員から引っ越しを要求されたり、雇用契約を打ち切るなどと脅される
【2016年11月】
Aさんは3時間ほど怒鳴られ続け机を蹴られたことで仕事へ行けなくなる
【2016年11月〜現在】
Aさんは適応障害と診断される(現在も療養中)
2017年6月29日、Aさんは役場職員からパワハラを受け休職せざるをえなくなったとして、南伊勢町に対し損害賠償を求め提訴する
まず、Aさんが協力隊として働いていた期間は実質4~5ヶ月程度ですね。
休職してから提訴に至るまでのおよそ半年間はずっと自宅療養をしていたと考えられます。
この訴訟事件で同じ協力隊として気にかかる点が1点あります。
住民票を着任地域に異動する義務と実質の居住場所
協力隊は着任地域に住民票を移さなければならない
当たり前ですが、僕は今東京都民ではなく岐阜県下呂市民です。
協力隊は移住して活動を始める際に、手続き上の移住も必要になります。これすなわち「住民票の異動」です。
僕も協力隊初日に住民票の転入届を出しました。もちろん前に住んでいた東京都足立区で転出届を出しています。
この住民票の異動に関して多くの自治体が次のような記述をしています。
住民票の異動は、必ず任用日以降に行ってください。それ以前に住所を異動させると応募対象者でなくなり、採用取消となる場合があります。
応募対象者で無くなるというのは、次に挙げる地域おこし協力隊の条件(1)から説明できます。
- 現在三大都市圏をはじめとする都市地域に在住する方で、活動期間中下呂市に住民票を異動できる方
- 任用される前に下呂市の区域内に住所を定めたことがない方
- 任用の日において20歳以上50歳未満の方
- 心身ともに健康で、地域協力活動に意欲と情熱を持ち地域住民とともに積極的に取り組める方
- ワード、エクセル及び電子メールなど、一般的なパソコンの操作ができる方
- 普通自動車免許を所持し、実際に運転のできる方
- 市の条例及び規則等を遵守し、職務命令等に従うことができる方
- 地方公務員法第16条の欠格事項に該当しない方
引用:下呂市役所 地域おこし協力隊募集ページ
要は地域おこし協力隊となるには色んな条件があるけど、任期中は着任地域に住まないといけないよということです。
着任地域は南伊勢町だったが居住地域が伊勢市だった
今回のAさんは実際住んでいた場所は隣町の伊勢市のアパートですね。
制度上住民票は南伊勢町に異動したはずでしょうが、実質住んでいた場所は南伊勢町ではないです。
南伊勢町に住まなかったのは、役場から紹介された住居が
- 津波の危険が予想される地域にあった
- 築40年の雨漏りするところ(中日新聞の記事から)
だったからでした。
ただ理由がなんであるにせよ、住民票と実際の居住場所に齟齬があるのはマズいことですね。
Aさんの場合は住民票が南伊勢町にあるのに伊勢市に住んでいたということです。
住民票の異動をする必要がないのは次に挙げる2点の場合のみです。
- 生活の拠点が異動しない場合
- 新住所に住むのが1年未満と分かっている場合
Aさんの場合というか地域おこし協力隊の場合どちらも当てはまらないでしょう。
ここでもしAさんが実際の居住地域である伊勢市に住民票を移していたとします。
ただこの場合、上で挙げた協力隊の条件に矛盾するので南伊勢町以外の市町村に住民票を異動していると協力隊としていられなくなります。
何より、募集地域での起業や定住を推進する制度であるので地域外に住むというのはお門違いでしょう。
南伊勢町?伊勢市?どこであっても住めないところには住めない
ここまでAさんに非があるような記述をしてきましたが、実際大事なのはここです。住めないところには住めません。
どの程度の古い家だったのか、津波の危険エリアだったのか僕には分かりませんが協力隊にとって住居は本当に大事です。
仕事よりも地域行事よりも何よりも一番長い時間を過ごすのが家です。
何より地域おこし協力隊の中には僕のように全く見知らぬ土地へ来て生活をする方だっています。
精神的に、肉体的にどっちもきついと思います。Aさんもそうだったのかもしれません。
そう考えると住民票だの引っ越しだのなんて言っていられないかなと思います。文字通り、住居は死活問題です。
南伊勢町で起きたようなトラブルを未然に防ぐには
応募もしくは面接段階でお互いにスクリーニング
これは応募者も自治体も双方すべき基本中の基本のことです。
住居に関しては事前にこういう所を想定しているとか、こういう家は住みませんとか事前に共有し合わないといかんです。
僕の場合応募段階でどんな住居を検討しているか担当の方に聞きましたね、しつこいくらい。でもしつこいくらい聞くべきです。一番重要。
そしたら写真付きで色々送ってくれました。実際来て住んでみてからギャップはそこまでありませんでした。
ちなみにこちらの記事で地域おこし協力隊に応募する前段階でやるべきことをまとめています。
地域内で他の物件を探す努力をすべき
南伊勢町の職員の方がやったのかは分かりませんが、Aさんが住めませんと言った時点で別の物件を当たるべき。
Aさん自身も探す努力はすべきだと思いますが、町の紹介ということは町営住宅とかそういう形の住居と思われるので自治体が積極的に探すべきでしょう。
地方都市の公営住宅って古いものばかりでそれが嫌であれば、例えば普通の賃貸アパートでも予算の範囲内であれば完全OKでしょう。
そういうことも考えて来る前に自分の住めそうな物件があるかSUUMOとかで検索するべきですね。
馬瀬にはSUUMO登録物件は一件もなかったので写真もらえてよかったです笑
でも僕がもし今の家に不満があったら、役場の方もちゃんと探してくれるはずです。
地域おこし協力隊担当職員は必要
これは完全に自治体側の都合ではありますが、協力隊担当職員は1名以上つけるべきです。
移住前、移住してから活動期間中も相談に乗るとか地域に溶け込めるようサポートをするとか…
僕にはちゃんと1名役場の方がついてくれています。ただ前任の協力隊担当の方も気にかけて下さるので実質2名です笑
そのおかげで今のところ生活や仕事に問題なくのびのびと過ごせております。
たとえ正社員でなくとも、人を雇用をするということは雇用側はその人に対してしっかり責任を持たなければなりません。
さっきも言ったように協力隊の移住後の生活(特に直後)は負担がかかりますし…
おわりに
同じ地域おこし協力隊としてこのニュースにはだいぶ驚きました。
特に僕は移住してからあまり不満に感じていないので、こんな自治体もあるのか!という感じでした。
もちろん人間なので個人的な問題もあるでしょうが、出来るだけトラブル対策を取ってほしいですね。
僕が上で挙げた以外にもたくさん方法はあると思います。
今回の訴訟事件で南伊勢町は少なからずイメージダウンしてしまったでしょう。
地域活性化のために受け入れた地域おこし協力隊が逆に転じてしまうとはなんとも悲しいことです。
本来の目的を達成できるよう全国の協力隊、自治体の皆さんうまくやっていきましょう。
もうこんな事件は起きてほしくないので!とにかく現在療養中のAさんには早く元気になってほしいですね。
ちなみに協力隊会議の終わり際、「提訴する前に一言相談してくれよ」と念を押されました笑
僕の場合転職しかも東京から移住してまで協力隊となったのでこうならないよう願うばかりです。